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【フロントランナー】最後の素粒子「ヒッグス粒子」の発見は、さまざまな謎の解明のスタート台
2025/10/1
この記事は、「WAOサイエンスパーク」で2012/10/22に公開された記事です。
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 教授 野尻 美保子
1962生まれ。京都大学理学部卒。同大大学院理学研究科修了後、日本学術振興会特別研究員、ウイスコンシン大学研究員、高エネルギー物理学研究所助手などを経て、京都大学基礎物理学研究所助教授に。 2006年より現職。専門は素粒子論。2007年より東京大学数物連携宇宙研究機構主任研究員も務める。
2012年7月4日、スイスにあるCERN(欧州合同原子核研究機関=セルン)は「新しい素粒子を見つけた」と発表した。長年、世界中の科学者が追い求めていた「神の粒子」=「ヒッグス粒子」と見られる新粒子の発見だ。これによって、その存在を予言した科学者たちのノーベル賞受賞は確実とさえいわれている。なぜヒッグス粒子は「神の粒子」とまでいわれるのか? そもそもどんな素粒子なのか? でも、「素粒子って何?」という人も多いだろう。ヒッグス粒子の前に、「素粒子とは何か」を野尻先生に解説してもらおう。
その日(7月4日)、私は茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構にいました。中継で発表の様子を見ていたのですが、私自身もCERNの研究に理論的な面からかかわっており、うれしいと同時にほっとしましたね。なにしろヒッグス粒子は標準モデルにおける最後の素粒子と考えられているのですから。いや、いきなり標準理論とか、素粒子とか言ってもわからない人も多いかもしれませんね。今回は、そこからお話しましょう。
素粒子とは、「物質を細かく分け入って、これ以上、分けられない最小単位」のことをいいます。19世紀までは水素やヘリウム、酸素など原子が最小単位だと思われていたのですが、原子にも構造があって原子核、電子から成り立っていることがわかってきました。さらに、この原子核も陽子と中性子からできている。ここまでは、みなさん習っているでしょ? ただ、まだ先があって原子核は3つのものからできています。この3つの物質が素粒子。実は電子も素粒子の一種で、これらはもうそれ以上、分けることができません。
原子核を構成している物質は「クォーク」と呼ばれるグループの素粒子で、陽子は「アップ」2つと「ダウン」1つ、中性子は「アップ」1つと「ダウン」2つで成り立っています。図のように、クォークにはアップ、ダウンのほかに4種類、合計6種類あります。ちょっと難しいけど、陽子や中性子のような「強い相互作用」で結びついたハドロンという複合粒子を構成するのがクォーク。ちなみに、まだクォークが3種類しか見つかっていないとき、6種類あると予言したのが、益川敏英先生(京都大学名誉教授)と小林誠先生(高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授)で、2人がノーベル賞(2008年)を受賞したのはみなさん知っていますよね。
じゃあ、電子は何なのか? 電子は他の仲間と一緒に「レプトン」(「軽い」という意味。6種類あります)というグループをつくっています。先のクォークとこのレプトンで物質は構成されています。
ところで、レプトンのなかにある「ニュートリノ」という言葉を、聞いたことがある人は多いでしょう。小柴昌俊先生(東京大学名誉教授)が、自然に発生したニュートリノを初めて発見して2002年にノーベル賞を受賞しました。このように素粒子物理学では、湯川秀樹先生はじめ多くの日本人が優れた業績を挙げているんです。
話を戻しましょう。素粒子には他に「ゲージ粒子」というグループがあります。詳しくは説明しませんが、ゲージ粒子は「力を伝える素粒子」。ゲージ粒子があるから素粒子同士はくっついたり、反発したりする。4種類あるゲージ粒子のうちの「光子」は光のことです。イメージしにくいかもしれませんが、光は実は粒子なんですね。正しくは、「光は粒子であり、波でもある」なのですが、いずれにしても光が粒子であることは覚えておいてください。
ここまでで、いくつ出てきましたか? そう16種類。これらはすべて1995年までに発見されました。しかし、現代物理学の基礎となっている標準理論では素粒子は17種類あるはず。1つ見つかっていない。これが、「ヒッグス粒子」。ヒッグス粒子が見つかって、ようやくすべてのピースが埋まるというわけです。

「ヒッグス粒子」はCERNにおけるLHC(大型ハドロン衝突型加速器)計画によって見つかった。山手線と同じくらいの長さ約27キロにも及ぶ円形のトンネルの中で、光速近くにまで加速した陽子同士を衝突させ、その様子を観察するというものだ。まさに、“壮大な実験”によって、標準理論の“最後の素粒子”は発見されたのだった。LHCではアトラスとCMSという2つの研究グループが観測を行った。日本チーム(研究者・学生あわせて約120人が参加)もアトラス・グループの重要な役割を担っているという。

ヒッグス粒子の発見は「新たな研究の始まりだ」とも言われる。野尻先生が言われたように、「間違いなくヒッグス粒子かどうか」さらなる検証も必要だし、場合によっては17種以外の素粒子が見つかる可能性もある。そもそも、超対象性理論と呼ばれるものではヒッグス粒子は4つあると予言されているくらいなのだ。また、CERNのLHC計画では、ヒッグス粒子以外の「宇宙の謎」にかかわる粒子も発見できるかもしれない。次のターゲットはダークマター。近年、大きく注目されるようになっている物質である。
そもそも、私はダークマターの研究からスタートしました。私が大学を卒業したころは、いまとは違って4年制大学を出た女子の就職はとてもとても厳しかった。「ならば」と思い研究者の道に進んだのですが、けっこう自分には合っていたのでしょうね(笑)、なかでもダークマターはとても興味深い分野でした。ダークマターというのは日本語では「暗黒物質」と訳されることもありますが、正体のわからない物質のことをいいます。
こういうと驚かれるかもしれないけど、宇宙に存在する物質のうち、私たち人類がわかっているものは4%しかありません。残りの96%のうち、23%がダークマター、73%がダークエネルギーとされています。こうしたことが、宇宙を観測することでわかってきました。実は、宇宙は加速度的に膨張しているんです。このことにダークエネルギーが密接にかかわっている、と考えられています。一方、ダークマターは光子と相互作用しないので光りません。つまり私たちには見えない。しかし、重力と相互作用していることはわかっており、存在することは間違いない。そして、このこととヒッグス粒子の質量が比較的軽かったことには何か関係があるのではないか? このように、ダークマターを含めたいろいろなことがLHC計画で検証できると期待されています。ヒッグス粒子の研究はとても大きな可能性を秘めているわけです。
それにしても、山手線と同じくらいの大きさの装置を使うなんて、すごい実験でしょ(笑)。私たちの高エネルギー加速器研究機構(通称KEK)にも、CERNには及ばないですが大型の加速器があって、いろいろな実験を行っています。KEKには、私のような理論を研究する人の他に、その理論を解明する実験の方法を考える人、実験装置そのものを作り上げていく人など様々な分野の専門家がいます。そして、それぞれがそれぞれの分野でやり甲斐をもって仕事に取り組んでいます。若い人には、どんどん私たちの仲間になってもらいたい。とくに、女の子は大歓迎! ユニークな発想で、ぜひ日本の素粒子研究のレベルを高めてください。待っています。
《文=WAOサイエンスパーク編集長 松本正行》

高エネルギー加速器研究機構のWebサイト
高エネルギー加速器研究機構が製作するサイエンス・コミック
LHCアトラス実験日本アトラス研究グループのWebサイト
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